学校での和楽器教育

水道管として安価で販売されている塩化ビニールパイプを利用した、横笛づくりに挑戦。
学校教育
Classroom Report
 

1.主題設定の理由

「とにかく大きな声を出して歌いたい。旅立ちの日にという曲は、力強く大きく羽ばたく姿を描いた曲だから。」合唱コンクールに向けての授業で表現の方法を話し合った後のA男の授業感想である。願い通り合唱コンクールでは一人一人がしっかりと声を出し、思い切り大きな声で歌うことができた。しかし、音の強弱に終始し、声の質や音色等で表現するまでには至ることはできなかった。そこで、表現力を高めていくためには、様々な表現方法があることから学ぶ必要があると感じた。

本校では「歌声の響く学校」をめざし、全校で帰りの会や集会活動で歌う場面を大切にしてきた。生徒達は、全校の力を結集して精一杯歌うことに気持ちの良さを感じている。しかし、声を出すことばかりに気を取られ、音楽内容や自分の曲への思いを適切な方法で表現する面をおろそかにしてきたと反省している。音楽は自分を写す鏡である。様々な音楽の構成要素を使ってこそ、巧みに表現することができる。そこで「音・音楽に対する感性を持ち、生き生きと表現できる生徒を育てたい」と考えるようになった。

学習指導要項の改訂から、中学校音楽科の目標に「音楽活動の基礎的な能力」を伸ばすことが新たに加わった。音楽は音色、リズム、旋律、和声を含む音と音との関わり合い、形式等の構成要素や速度、強弱等の表現要素による構造的な側面、そして雰囲気、曲想、美しさ、豊かさといった音楽固有の感性的側面が互いに関わり合って成立している。これらを感じ取る感性が「基礎的な能力」であるといえる。そして、この感性は豊な表現をする上で基礎となる力になってくる。

さらに、3学年を通して1種類以上の和楽器を用いた学習をすることが位置付けられた。西洋の楽器や音楽に親しんできた生徒達にとって、新しいものにチャレンジする良い機会である。日本伝統音楽の持つ教育的特性をふまえ、生徒の音や音楽に対する感性と表現力を伸ばす指導ができないかと考え、本主題を設定した。

 
 

Classroom Report
 

2.研究の仮説と具体化の手立て

<資料1>

<資料2>

(1) 生徒の実態から

生徒の表現することに対する意識を探るために、アンケートをとった。
「合唱やリコーダーで曲を表現する時、どんなことを工夫したり気を付けたりしていますか」という問に対し資料1の回答を得た。

音・音楽に対する感性を高めていくためには、生徒の意識が低い音色に焦点を当てた学習を展開する必要がある。
また、日本伝統音楽や和楽器に対する意識については、意外にも7割の生徒が好きであると答えている。理由は資料2である。

しかし、これまでに和楽器に触れたことのある生徒は、38人中たった3人である。数少ない音楽体験の中で、イメージを形作っているといえ、レディネスは限りなく0に近いと考えられる。このことは、実際に楽器に存分に触れたり、良い演奏を聴いたりして、実際に音色を体感する学習を展開する必要があるということを示唆してる。

(2) 日本伝統音楽の特性から

私は日本伝統音楽には以下のような特性があると考えている。

  • 不即不離のリズム、音のずれ、雑音性の醸し出す空間が、日本人の雅や粋と言った精神性や文化につながっている。西洋音楽中心に学んできている生徒にとって、多様な表現は大変新鮮でありおもしろさを感じることができる。
  • 1つの楽器の各部をくまなく使って様々な音を出すことができ、弦楽器であっても打楽器のように用いたりすることができる。また、楽器誕生から現代まで、様々な奏法が作り出されている。従って、様々な音色の変化による表現が可能である。
  • 旋律を引き立たせる手法として、「飾り」「さらし」「合いの手」がある。どのような旋律をも即興的に変化させて演奏することができる。音色の変化についても味わいやすい。そこに表現の独自性が生まれ、演奏のおもしろさを感じ取ることができる。

日本伝統音楽は、自然の音を模倣しようと創った楽器を使い演奏する。また、その作品の多くは自然事象を表現しようと音色の工夫を凝らし、創られているものである。従って、生徒の生活の中で自然に聞いている音を表現している点で、生徒が音のイメージを感じ取りやすい。音色の変化を感じ取ったり、その変化を表現に生かす活動は、感性を呼び覚ますに違いないと考える。

(3) 筝の特性から

私は、筝には以下のような特性があると考えている。

  • ギターのように弦をはじただけでも、美しい音と和の雰囲気を感じることができる。また数譜であるので、五線譜が苦手な生徒にも取り組みやすい。さらに調弦をかえるだけで、幅広いジャンルの曲に挑戦できる。西洋音楽同様の活動ができる一方で演奏が比較的簡易であるので、短時間での学習が可能である。西洋音楽にどっぷり使って育てきた生徒たちには、学習への意欲が期待できる。
  • 余韻の長さを利用した古典的な奏法が確立されており、様々な音色を楽しむことができる。また、その活動は生徒の音色に対する感性を高め、豊な表現活動へと発展させることが可能である。現代の演奏家は、音色を生み出すために様々な奏法を作り出し続けており、新しい演奏に挑戦している。生徒の音色づくりへの意欲をそそるものである。
  • 本来合奏楽器であることや筝の魅力的な音色が、生徒の心の中に流れている日本の心を呼び覚まし、日本人が大切にしている一期一会の精神や場の雰囲気にふさわしい演奏を作り出すことができる。相手の音色を聴きながら自分の音色の出し方を決めたり、間の取り方を変えたりして一緒に演奏空間を作り出すおもしろさを味わうことができる。

筝は現代においても、様々な奏法が開発されている点で、進化し続けている楽器である。生徒にとっても無限の表現の可能性を持つといえる。生徒の自由な発想が生き、自分の思いを表現できる満足感を味わうことができる楽器である。また、様々な表現を試す活動の中で、音色の雰囲気や微妙な変化を感じ取ることができる。従って、筝は感性を磨き、表現力を培う学習には適していると考える。

(4) 仮説

このような子供の実態と日本伝統音楽、筝の特性をふまえ、次のような仮説を設定した。

○に本伝統音楽と筝の特性を活用した創作表現活動を展開すれば、音・音楽に対する感性と、生き生きと表現する力を育てることができるであろう。

<資料3>

(5) 研究の手立て

豊かな感性を持ち、生き生き表現する姿を以上のように捕らえ、手立てを考えた。

ある事象に感動したり、共感・反発したりしながら(感受性)、子供が自分の考えや方法で活動し(独自性)、試したり新たなものを求め(試行性)、それを素直に表現する(表出性)姿

[一]教材との出会わせ方の工夫

a)生徒の学習意欲を高める学習展開

生徒が筝の音色についての学習に意欲を持つためには感動的な教材との出会いが必要である。音楽科の授業は週1回であるので、意欲の断続が難しい。そのため1時間の流れを完結型にし、資料3のようにパターン化することにで生徒が学習しやすいものにしていく。また、1時間を追うごとに自分の成長がみえるように、主題の構想を発展学習的に組み立てた。さらに、鑑賞曲の精選と学習の見通しを持たせる学習プリントの活用で意欲的な活動を引き出す。

b)音色で印象付け、技能面を支える支援

3人で一面の筝を準備し、切磋琢磨できるようにする。生徒一人一人が正しい弾き方を学んだ上で奏法の基本を学び、演奏するための適切な音色を体感する。奏法による音色の変化や微妙な音色の基本を系統的に学べるように、資料4のメソッド設定する。授業をはじめる前にウォーミングアップのつもりで取り組ませるようにする。
またビデオ映像や写真などの資料を用意し、姿勢や手の形のイメージを掴みにくい生徒の支援をする。

<資料4>

[二]日本伝統音楽・筝の特性の活用

a)「かざり」「さらし」「合いの手」を使った創作表現活動の位置付け

音色やその変化をよく感じ取らせるため、創作表現活動は短時間に構想を練り、試しながら演奏を創ることを何度も繰り返していく。資料5にあげる、筝曲の作曲技法を活用する。簡単に曲に変化させることができるので、生徒が楽しんで創作できる。作品を創り上げることは、満足感を得ることにつながり、次へのエネルギーになる。何度も試しながら創作する時、多くの音色やその変化を味わう。これは、音色に対する感性を豊かにする活動になる。

<資料5>


b)お話を作って表現する活動の位置付け

伝統的な作曲技法にあるような序破急の形式に近いお話作りをし、それを筝で表現する。そこで、話にあった奏法を工夫したり、独創的な発想で音色を作り出すことを通して、音や音色に対する感性と表現力を高めていくことができる。

[三]良さを認め合う発表場面の設定

創作表現活動は、発表する場面も創作場面である。発表には緊張感があり、偶然におもしろい音色が生まれることがある。聴く側にも音色の良さを探し、自分たちの演奏に生かそうと呼びかけることで、意識が音色に集中し、聴き味わうのに適した活動となる。

(6) 抽出生徒の設定

この研究をすすめるにあたり、資料6の2人を抽出生徒として選び、その変容を追うことによって仮説の検証をしていく。

<資料6>

(7) 題材の構想
以上の研究の仮説と具体化の手立てを受け、資料7のように題材を構成した。

<資料7>

 
 


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